気絶して意識のないままで「購入する」ボタンをクリックした運命のあの日から、2日が経過した。会社に飼われて生きながらえる哀れな社畜であるところの自分も、人並みに年末の休みなぞを頂いている。休み、ということは会社に行かなくていい。さらに、今日は鳥を見に行く予定もないのだ。そんな朝、我々が人間として何をすべきか。答えはひとつだ。「寝る」。これ以外にない。カーテンの隙間から差し込む光が、すでに夜明けであることを示している。窓の外では太陽の野郎が、地表の各種生命体を覚醒させるべく、じわじわその照度を高め始めている。ちっ。だがしかし、そんなもので私の睡眠を妨げることはできると思ったら大間違いだ。そっちがその気なら、こっちも全身全霊をかけて惰眠をむさぼりつくしてやる。あぁ布団、最高だ……。できることなら、明日の朝までこのぬくもりに包まれながら、意識を失っていたい……。
そのとき!!
「ピンポーン!」
無遠慮なチャイムの音に、強制的に起こされた。
続いて「宅急便でーす」の声。
脳内に「起きますか はい(Y) いいえ(N)」のダイアログが表示される。思わず 「はい(Y)」をクリックしそうになったが、あることに気づいて0コンマ3442秒で覚醒した。
寝間着&寝癖のまま、玄関に走る。
そう、ついに。
ついに。
ついに、一生手にすることなどないだろうと思っていた一眼レフデジカメ、D1xが我が巣に届けられたのだ。
受け取りのサインもそこそこに、ヤマト運輸の段ボール箱を部屋の奥へと運び込む。誰かが窓を突き破って部屋に押し入り、D1xを奪っていくのではないか? そんな妄想に思わずキョロキョロしながら、箱を床に置く。まずは、石鹸を使って丁寧に手を洗ってから正座だ。そして、深呼吸。すぅううう〜 はぁああ〜。落ち着いたところで、段ボール箱を止めたガムテープをカッターで慎重に切っていく。ドキドキドキ。段ボールのフタが持ち上がると、梱包材の中から銀色の化粧箱が現れた。それを開けると、いよいよビニール袋に入ったD1x本体の登場だ。
黒光りするD1x。ふるえる両手でゆっくりと持ち上げると、ずっしりとした重みが、手の中でその存在を主張する。
これがッ!
これがッ!
これがD1xの重みかーーーーッ!
滑って落としたりしないように、細心の注意を払いながら、キズやへこみがないかを必要以上に丹念にチェック。
これがッ!
これがッ!
これがD1xの造形かーーーッ!!
キズへこみチェック、オッケー。次に、本体を下を向けてレンズキャップを外し、すでに買ってあったAF-VR 80〜400mmレンズを装着。背面を開いてCFカードを入れ、前夜から充電してフル充電されている専用電池を差し入れた。
D1x、起動準備完了ォーーーーッ!
電源スイッチを、時計回りに動かす。カチリ。液晶にシャッタースピードやf値が表示され、D1xは実に何事もなく起動した。
自分の手のひらの中に収まる、D1x。目の前の光景が、まだ信じられない気分だ。
これは、夢か!? 夢なのか!?
だがしかし、少しウデに力を入れるだけで、ずしり、という重さを手の中に感じることができるのだ。
これは、夢じゃない。現実だ!!
今、この瞬間、私の右手にはD1xが握られているのだ!!
そして、そのD1xは間違いなく私の所有物なのである!!
うおおおおお!!!
D1xが!!
D1xが!!
D1xがオレのモノぉおおおおおお!!!!!!!
(あ、でも、この時はクレジットの引き落としがまだだから、正確にはカード会社のものなんですよね?)。
レンズのキャップを外し、ファインダーをのぞく。ぼやけた視界。シャッターを半押しする。スーパーインポーズされた測光ポイントが赤く光り、瞬時に部屋の向こう側の壁が鮮明に表示された。
UltraZoomとはあまりに違う、このおそるべきレスポンスの良さ。そして、圧倒的な品質感と重量。このまま近所のカワセミポイントに駆け出したくなったのを、なんとか自制した。
とまぁ、そんなわけで鳥もカメラもキャリア一年未満のド素人が、D1xを使ってはや8カ月が経過しました。素人が手に余る道具を手にするとどうなるか、という情けないご報告をいたします。
●で、D1xってどうよ。
(1)重い!!
まず、最初に実感するのが、圧倒的な重量感。というか、重量です。今まで、C−2100 UltraZoomしか使っていなかったウデには、かなりキビシイ負担。たとえば「片手でカメラをバッグから取り出す」といったシチュエーションなどは、ちゃんと「持つ」ということを意識して扱わないと、不意に手からこぼれたりしてしまいそうで非っ常にコワいです。というか、何度か落としそうになってしまい、すでに5リットル以上の冷や汗をかいています。
でも、この重さがボディの質感と相まって、「一眼レフを持ってるんだ〜〜〜、ぐへへへへ。オレ様のカメラは、高いんだゼ〜〜(ウデはともかく)」という気分を必要以上に感じさせてくれます。ニコンマニアの方が、自分のカメラに「様」をつけてしまう気持ちが実によくわかりました。
(2)薄い!
いや、本体がではなくピントの合う範囲が、です。並んだスズメを撮ったら、真ん中のスズメにだけピントがあって、前と後ろのスズメはもうボケちゃいます。鳥の羽の部分にピントを合わせると、眼やクチバシはすでにピンあま風味。ピントに関しては、本っっっ当にシビアだと思います。いわゆる「解像度が高いから、ちょっとのピンボケも気になる状態」なのか、「ウデが悪いからピントがちゃんと合ってない」なのかはわかりませんが(おそらく、両方でしょうけどね(T.T))、ジャスピンの許容範囲が、実に狭いです。ピントがシビアな分、ジャスピンなら実に素晴らしくシャープな描写になります。これはもう、コンパクトデジカメとは別世界。うはははは、この画をゲットするために、無謀な出費をしたのですなぁ。
……でも、やっぱりもうちょっとだけピントの合う範囲が広くてもイイよなー、と感じること多数。まぁ、レンズや絞りとの関わり合いもあるのでしょう。物理的に無茶であろうことも、十分承知の上です。なのですが、それでも「この部分は、今まで使っていたコンパクトデジカメの方がよかったかも〜」と、思えてしまう部分があるのはり悲しいですよね。
(3)ピントが合う!?
レンズによっても違いはあると思うのですが、AF-VR 80〜400mmを装着したD1xのAF精度や合焦スピードは、UltraZoomのヘナチョコAFの5億倍(体感値)イイです。「鳥だーッ!」 → カメラを向ける → ファインダーの中に鳥が入る → ピントが合う シャッターを切る と、ここまでの時間が7兆分の1(体感値)に減少しました。
でも、やっぱり入り組んだ枝の中にいる鳥を狙うと、「無限遠まで行って戻って、迷って、結局違うところに合う」という動作もします。「鳥にカメラを向け、シャッターに指をかけると同時にマッハの合焦!」という、買う前に妄想していた世界とはかなり開きがると言わざるを得ません。それに、いくら高画質デジカメとはいえ、やっぱり遠くの鳥はそれなりにしか写りませんでした。期待が高すぎた分、ちょびっとガックリ来ちゃったりもしています。
でもでも、そんな中でもまれにピントがバッチリ合ったのか、遠くにいる鳥が異様なほどのシャープさで写っていることがあります。どうせなら、全部これぐらい写って欲しいんだけどなぁ。
(4)濃い!
発色が鮮明な分、明るいところはバッチリキレイ。暗い部分は真っ黒けになります。光の当たり具合に、必要以上に気を遣わないとイケナイ感じです。ふつうにパシャ、と撮ったのでは、影の部分が黒く沈んでしまいます。
「鳥だー! あたふた」と、鳥の出現と同時にバタバタ撮っている今のスタイルじゃあ、ピントが合ってるかどうかを判断するのでいっぱいいっぱい。とても、光の当たり具合まで気が回りません。鳥全体がバッチリキレイに発色している写真を撮るのが、なかなか好条件じゃないと難しい感じ。これって仕方ないんでしょうかねー?
(5)ファインダー内の表示が暗くて見にくい!
今まで使っていたC-2100UltraZoomは、液晶ファインダーに写った被写体の上に各種の情報が表示されていました。被写体を見ると設定情報も見ることになるわけで、シャッタースピードや露出を瞬時にチェックできます。そんな表示に慣れきっていたので、D1xのファインダー内下部に並んだ各種の設定表示が、見ようと思って意識しないと見えません。いや、視界には入っているのですが。
そんなわけで、ピントを合わせと設定確認が同時にはできないんですよ、わし。たとえばピント合わせに集中して、シャッタースピードが遅いのに気付かないとか、しょーもない失敗多数。ファインダー内の表示を見るのに、どうしても自分の中で意識を切り替えるタイムラグが発生してしまいます。これは慣れなんでしょうけどね。
せめてピントが合ったらスーパーインポーズの部分が発光する、とかしてくんないかな。
(6)うるさい!
うちのAF-VR 80〜400mmは、その名の通り超音波モーター内蔵レンズではないレンズです。ピント合わせをする度に、ヴニ゙ニ゙ニ゙ニ゙ニ゙〜。というブチ壊れそうな音を出します。特に、梅にとまったメジロを狙うような、上向きの状況ではスゴイです。この音で、鳥、逃げちゃうんじゃぁ……。
(7)トビモノだって、なんとかなる。
ISO800も、ずいぶん見られる。というか、Coolpix995のISO200の方が、D1xのISO800よりよっぽどツブツブです。なので、多少暗くてもISO感度を上げてシャッタースピードを速くできます。それに、シャッターを押してから撮れるまでのタイムラグが、UltraZoomの80億分の1ぐらい(体感測定)の短さです。カモメとかカモなら、コンティニュアスAFで追いかけてパシャっとやるだけで、さっくりトビモノの写真が撮れます。
UltraZoomで飛んでる鳥を撮るには、それはそれは大変な苦労がありました。いや、ウデの問題も多分にあるんですが。「AFが追いつかないのでマニュアルで大まかにフォーカスを固定」 → 「鳥の動きを予想しつつファインダーに入れる」 → 「きっとこの辺でピントが合っているに違いないと信じてシャッターを押す」 → さらに「シャッターラグがあるので、画面がブラックアウトしている間も鳥が動いているであろう方向にカメラを動かす」という、結構な手順をふんでいました。うーむ、なんだったんだ、あの時の苦労は。
(8)画質はさすがです。
ちょっとピンあま風味でも、アンシャープマスクをかけまくって無理矢理復活させられます。COOLPIXやUltraZoomの写真で同じ処理をしたら、間違いなく前衛芸術になってしまうようなキッツイアンシャープマスクをかけても、画像が破綻しません。この辺は、レンズとCCDのあからさますぎる違いを感じてしまいます。
……と、ここまで書いて力尽きたので、レンズや保存形式による画質の違いはまた今度書きます。がくっ。